オンライン会議が始まる数分前、心臓がバクバクし始めた経験はありませんか? 画面の向こうには海外のエンジニアたち。 「今日は何を聞かれるんだろう」「答えられなかったらどうしよう」 そんな不安を抱えたまま、ZoomやTeamsの接続ボタンを押す。
そして会議が始まった瞬間、絶望が訪れます。 相手が何を言っているのか、まったく聞き取れないのです。 知っている単語のはずなのに、音がつながって聞こえてしまい、まるで知らない言語のように響く。
愛想笑いを浮かべながら、必死にキーワードだけでも拾おうとするけれど、議論はどんどん進んでいく。 発言するタイミングを完全に失い、気づけば会議終了まで一言も発せずに終わってしまう。 いわゆる「地蔵」状態です。
エンジニアとして技術力には自信があるのに、英語の会議だけはどうしても怖い。 これは、多くの日本人エンジニアが抱えている深刻な悩みです。 でも安心してください。あなたが悪いわけではありません。 これはあなたの能力不足ではなく、脳の処理プロセスの問題、いわば「バグ」のようなものだからです。
この記事では、なぜエンジニアが英語を聞き取れないのか、その科学的な原因と、今すぐ使える強力な「切り返しフレーズ」、そして根本的にこの問題を解決するためのトレーニング方法について詳しく解説します。 明日から堂々と会議に参加できるようになるための、最初の一歩を踏み出しましょう。
なぜ、エンジニアなのに英語が聞き取れないのか?

あなたは普段、英語のドキュメントを読んでいるはずです。 GitHubのIssueを読んだり、Stack Overflowでエラーの解決策を探したり、最新の技術記事を読んだりできているでしょう。 つまり、英語の「知識」は十分にあるのです。
それなのに、なぜ音になった瞬間に理解できなくなるのでしょうか? それは、「リーディング(読むこと)」と「リスニング(聞くこと)」では、脳が使っている回路がまったく異なるからです。
原因は「知識」ではなく「耳のデータベース」の不足
私たちが英語を聞くとき、脳内では「音声知覚」という処理が行われています。 耳から入ってきた「音の波」を、脳内にある「音のデータベース」と照合し、「あ、これは『Check it out』と言っているんだな」と認識する作業です。
しかし、日本人の多くはこの「正しい音のデータベース」を持っていません。 学校で習った「チェック・イット・アウト」というカタカナ発音のデータベースしかないのです。 そのため、ネイティブが「チェケラ」と発音したとき、脳が「データなし(404 Not Found)」というエラーを返してしまいます。
つまり、あなたの英語力が低いのではなく、脳内のデータベースが古いバージョンのままだから、最新の音声データに対応できていないだけなのです。 この違いを、エンジニアの皆さんに分かりやすいように表にまとめてみました。
| 項目 | リーディング(読む) | リスニング(聞く) |
|---|---|---|
| 処理の対象 | 文字情報(Text) | 音声情報(Sound) |
| 必要なスキル | 文法知識・語彙力 | 音声知覚・音のデータベース |
| 処理速度 | 自分のペースでOK | 相手の速度に依存(リアルタイム) |
| エンジニアの状態 | 得意(API仕様書などは読める) | 苦手(音の変化についていけない) |
| 項目 | リーディング(読む) | リスニング(聞く) |
|---|---|---|
| 処理の対象 | 文字情報(Text) | 音声情報(Sound) |
| 必要なスキル | 文法知識・語彙力 | 音声知覚・音のデータベース |
| 処理速度 | 自分のペースでOK | 相手の速度に依存(リアルタイム) |
| エンジニアの状態 | 得意(API仕様書などは読める) | 苦手(音の変化についていけない) |
この表を見ていただければ分かる通り、あなたが鍛えるべきは「文法」や「単語」ではなく 「音声知覚」という、これまで学校では教えてくれなかった全く新しいスキルなのです。
これを理解せずに単語帳を眺めていても、一生リスニング力は上がりません。
今すぐ使える「聞き取れない時」の魔法の言葉

とはいえ、脳内のデータベースを更新するには時間がかかります。 明日や明後日の会議を生き延びるためには、緊急回避策が必要です。
そこで、エンジニアとしてのプロフェッショナリズムを保ちつつ、自然に聞き返すための「回避フレーズ」を3つ紹介します。 これらをメモ帳に書いて、PCの画面の横に貼っておいてください。
1. 「回線のせいにする」のがプロの技
正直に「聞き取れない」と言うのが怖いなら、通信環境のせいにしましょう。 オンライン会議ならではの特権です。誰も傷つかず、堂々と聞き返すことができます。
例文
“Sorry, the connection is a bit unstable. Could you say that again?”
(すみません、接続が少し不安定で。もう一度言っていただけますか?)
“You were breaking up a little. Could you repeat the last part?”
(少し音声が途切れました。最後の部分をもう一度お願いします。)
こう言えば、相手は「ああ、ネットの調子が悪いのか」と思い、よりゆっくり、はっきりと話してくれます。
あなたの英語力の問題ではなく、インフラの問題にすり替えるのです。 これはズルいことではありません。正確な情報を得るための、リスク管理の一種だと思ってください。
2. 「具体例」を求めて時間を稼ぐ
相手の言っていることが抽象的で分からないときは、具体的な例を求めてみましょう。 話の内容を噛み砕いてもらうことで、理解できる単語が出てくる可能性が高まります。 また、相手に「私はあなたの話に興味を持っていますよ」という姿勢を示すこともできます。
例文
“Could you give me an example, please?”
(具体例を挙げていただけますか?)
“Just to clarify, do you mean like doing A or B?”
(確認ですが、Aということですか?それともBですか?)
特に後者のフレーズは便利です。 聞き取れた単語の断片をつなぎ合わせて、「こういうこと?」と推測を投げかけるのです。
もし間違っていれば「No, No」と訂正してくれますし、合っていれば「Exactly!」と言われます。 沈黙するより、間違った理解でもいいから確認する姿勢のほうが、海外のエンジニアには評価されます。
分からないまま進めない」というのは、エンジニアにとって最も重要な資質の一つだからです。
3. 「チャット」に逃げる
どうしても音声が聞き取れないときは、テキスト情報に頼りましょう。 エンジニア同士なら、コードやログを共有する文化があるはずです。
例文
“Could you type that in the chat box? I want to make sure I understand correctly.”
(チャットに書いていただけますか? 正しく理解したいので。)
“Could you share your screen? It would be easier to understand.”
(画面共有していただけますか? そのほうが分かりやすいので。)
文字になれば、こちらのものです。 あなたの得意なリーディングの領域に持ち込むことができます。 固有名詞や数字、複雑な仕様などは、むしろチャットで残してもらったほうが後々のためにもなります。 これも、正確性を期すための正当なリクエストです。
でも、いつまでも逃げ続けるわけにはいかない
ここまで、その場をしのぐためのテクニックをお伝えしました。 しかし、これはあくまで対症療法にすぎません。 毎回「回線が悪い」と言い続けるわけにはいきませんし、いつまでもチャットに頼っていては、信頼関係を築くのに時間がかかります。

本当の意味で「議論ができるエンジニア」になるためには、根本的な解決が必要です。 つまり、脳内の「音声データベース」をアップデートし、英語の音を正しく認識できる「耳」を作ることです。
では、どうすればそのデータベースを更新できるのでしょうか? 単に英語を聞き流すだけでいいのでしょうか? 残念ながら、聞き流すだけでは効果はありません。
知らないお経をずっと聞いていても、いつまでたっても意味が分からないのと同じです。 意味を理解し、その音を実際に自分で発声してみるプロセスが不可欠です。
リスニングのバグを修正する唯一の方法「シャドーイング」

そこで最も効果的なのが、「シャドーイング」というトレーニング法です。 これは、聞こえてくる英語の音声を、影(シャドー)のように少し遅れて真似して発声する練習です。
なぜこれが効くのかというと、強制的に「音声知覚」の回路を使わせるからです。 耳で聞いた音を、瞬時に口で再現しようとすると、脳はフル回転で音を分析し始めます。 ボソボソとしか聞こえなかった音が、クリアなデジタル信号のように解像度が上がっていくのです。
これを毎日続けることで、脳内のデータベースが更新され、 「『Check it out』は『チェケラ』という音なのか!」 という事実が大量にインプットされていきます。
するとある日突然、会議での相手の発言が、BGMのような雑音から、意味のある言葉へと変わる瞬間が訪れます。 これが、いわゆる「英語耳」が開いた状態です。
しかし、シャドーイングには大きな罠があります。 それは、「自分一人でやると、間違った音のまま覚えてしまう」ということです。 自分の発音が正しいかどうかなんて、自分では判断できません。 間違った発音(バグ)を脳に刷り込んでしまっては、逆効果になってしまいます。
「シャドテン」でプロのコードレビューを受ける
そこで私が強くおすすめしたいのが、シャドーイングに特化したアプリ「シャドテン」です。 これは、あなたのシャドーイング音声を録音して送ると、英語のプロフェッショナルが毎日添削してくれるサービスです。
イメージとしては、あなたが書いたコード(発音)を、シニアエンジニア(プロ添削者)が毎日レビューしてくれるようなものです。 「ここの連結音が聞けていませんね」 「ここの抑揚が違いますよ」 といった具体的な指摘(レビューコメント)が、24時間以内に返ってきます。
独学でのシャドーイングが「テストコードのない開発」だとすれば、シャドテンを使ったシャドーイングは「CI/CD(継続的インテグレーション)が回っている開発」です。

毎日フィードバックを受け取り、バグ(聞き取れない音)を一つずつ修正していく。 このプロセスを繰り返すことで、確実かつ最短で、リスニング力を向上させることができます。
私も実際に使ってみましたが、最初の1週間で劇的な変化を感じました。 今までなんとなく聞き流していた洋画のセリフが、急にクリアに飛び込んでくるようになったのです。 もしあなたが「本気で会議の恐怖から解放されたい」と思っているなら、これ以上のツールはありません。
より詳しい機能や、私が実際に使って感じたメリット・デメリットについては、以下のレビュー記事で徹底的に解説しています。 月額料金は安くありませんが、それ以上の価値がある理由も正直に書いています。
まとめ:まずは7日間、自分の耳を疑ってみよう
英語の会議で発言できないのは、あなたの性格のせいでも、技術力不足のせいでもありません。 ただ単に、耳のトレーニングをしてこなかっただけです。 筋トレと同じで、正しい方法で鍛えれば、必ず結果は出ます。
まずは7日間、無料でシャドテンを試してみてください。 自分の耳がどれだけ「音」を聞き取れていなかったか、驚くことになるでしょう。 そして、プロの添削を受けて、「聞こえる!」という感覚を味わってください。
その小さな成功体験が、次の会議での自信につながります。 「Sorry?」と聞き返す回数が減り、「I agree.」と即座に返せるようになる。 そんな未来は、すぐそこにあります。
